| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-252  (Poster presentation)

市民の保全意欲に関わる要因を広域情報で捉える:土地利用、個人特性、自然体験の役割【E】
Role of land use, personal attributes, and nature experience in determining public conservation orientation【E】

*赤坂宗光(東京農工大学), 曽我昌史(東京大学)
*Munemitsu AKASAKA(Tokyo Univ of Agri and Tech), Masashi SOGA(Univ of Tokyo)

都市化は人と自然とのつながりを減少させている。これは生態系保全にとって大きな問題である。なぜなら人と自然のつながりの減少は、人が自然環境あるいは生物多様性の保全に対する支持の低下をもたらすためである。市民の生物多様性の保全に対する支持が都市化の傾度に沿ってどう推移するか、およびその推移を規定するメカニズムについての理解は、広域で保全策を展開する上で不可欠であるが、これまで殆ど検討されていない。本研究は、全国規模のアンケート調査により収集した個人の保全意欲、自然とのつながり(感情的、認知的、経験的なつながりの3次元で評価)、自己申告した可処分所得と土地利用被覆データを統合して分析し、都市化の傾度に沿って市民の保全意欲の分布パターンおよびそのパターンを生み出すプロセスを検討した。解析の結果、地域の絶滅危惧種保全のための寄付の支払意思額として評価した保全意欲は、市街化の傾度に対して一山型の分布パターンを示していた。また、このパターンは、構造方程式モデルを用いた分析の結果、市街化に伴う3つの次元の自然とのつながりの減少による支払意思額の減少および可処分所得の増加により生み出されていることが示された。都市化の傾度に沿った自然とのつながりの低下のうち、特に自然との経験的なつながり(自然体験の量)と感情的なつながり(nature relatedness scale)の低下が支払意思額の減少に大きく寄与した。これらの結果は、都市化による自然とのつながりの低下への対応策として試みられている自然体験の増加のその成果を保全への支持につなげるには、感情的な自然のつながりの強化も視野に入れた内容が有効であることや、自然とのつながりを強化しても障壁の存在により期待したように保全への支持が向上しない場合がありえることを示唆する。発表ではこれらを踏まえて都市化の傾度に沿って保全を進める保全策についても議論したい。


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