| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-258  (Poster presentation)

新たな生物季節の広域・長期モニタリング:市民参加による展開
New long-term phenological monitoring: development as a citizen science

*辻本翔平, 小出大, 熊谷直喜, 池上真木彦, 西廣淳(国立環境研究所)
*SHOHEI TSUJIMOTO, Dai KOIDE, Naoki KUMAGAI, Makihiko IKEGAMI, Jun NISHIHIRO(NIES)

生物の季節性(Phenology)は気象の影響を受けるため、近年では気候変動の影響を理解する研究の中で重要性が増し、世界中で様々な国や生物を対象に生物季節の長期観測プログラムが運営されている。日本では、気象庁が1953年から開始した「生物季節観測」があり、約70年にわたって日本各地で、64種目(観測開始当初は105種目)の生物季節が記録されてきた。しかし、近年の気候変動や都市化の影響によって観測対象の確保が困難であること等を理由に、気象庁は9割の観測種目の中止を決定した。それを受け、国立環境研究所は、過去の気象庁の記録を生かすことができる新たな観測体制“生物季節モニタリング”をスタートした。このプログラムでは、ヨーロッパやアメリカで一般的な市民参加型の観測ネットワークの構築を目指している。
 2021年6月から本プログラムを開始し、観測対象は過去に気象庁の記録がある66種目、中でも気象庁によって規定種とされていたものを含む、“気象庁記録が長期的・広域的に蓄積されている種目”を重要種目と定義した。市民調査員は、長期的に観測できる地点を任意で設定して観測を行い、生物季節現象が気象庁の観測基準に達した際にその日付と一週間の観測実施回数を報告する形とした。
 2022年2月20日現在、42都道府県から321名の参加者が集まり、2197件の観測記録が寄せられた。この記録に対し、記録日に対する当年気温の関係性について、本調査と気象庁調査の間で整合性を解析したところ、違いがある種目とない種目とが認められた。気象庁による過去の記録も活用してアブラゼミの初鳴時期と気温の関係を解析したところ、初鳴時期は経年的に早くなっており気温の効果も有意であった。生物季節観測は市民科学との親和性が高く、気候変動の影響評価にも活用できる記録であると考えられる。


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