| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-260  (Poster presentation)

「博物館への質問」が持つ地域の自然史情報や生態学的知見の潜在的な価値
Potential value of "Questions for Museums" for local natural history information and ecological knowledge

*金尾滋史(滋賀県立琵琶湖博物館)
*Shigefumi KANAO(Lake Biwa Museum)

博物館には,地域住民や利用者から「この生き物の名前を教えてください」というような質問が寄せられることが多い.これらに適切な回答や対応,アドバイスを行い,より利用者の興味や自発的学習効果を高めていくことは,博物館のもつレファレンス機能として重要であると考えられる.
滋賀県立琵琶湖博物館では年間1400件ほどの質問が届いており,専門分野に応じてそれぞれの学芸員が対応するが,このうち,演者のもとには1年を通じて200~300件ほどの質問が届く.2012年4月から2016年3月までに演者が対応した1196件の質問について,その分野を分類すると,①生物の名前・同定に関する質問,②生物・地域の情報・知識に関する質問,③生物の飼育や病気の治療に関わる相談・質問,の大きく3つに分けられた.そして,その中においては,思いもよらず,こちらが地域の生物相や生態学的な知見を得ることができた質問もあった.例えば,県内でこれまで記録が少なかった在来種の分布に関する新情報,外来種の発見情報,個体変異(アルビノ,色素欠乏など)等についてである.そして,このような博物館への質問・連絡がきっかけとなって学術的にも貴重な記録になった事例も少なからず存在する.2020年に滋賀県内で約30年ぶりにコガタノゲンゴロウが発見されたことも学芸員への質問が基点であった.
このような知見が得られる質問は年間で受けるすべての質問の1~3%程度と多くはないが,社会に潜在している新たな自然史・生態学的知見のソースとして,大きな価値があり,市民参加型調査などとは系譜の異なる「ネオ市民科学」であると考えられる.博物館はそのような地域に眠る多くの情報を集約できる場としての機能も果たしており,今後はこのレファレンス機能の普及やその情報の集積,活用にも注目していく必要がある.


日本生態学会