| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-266  (Poster presentation)

耕作放棄地は農業害虫発生の温床になりうるか?
Can abandoned agricultural fields be a source of agricultural insect pests?

*馬場友希(農研機構), 田中幸一(東京農業大学), 楠本良延(農研機構)
*Yuki BABA(NARO), Koichi TANAKA(Tokyo Univ. Agric.), Yoshinobu KUSUMOTO(NARO)

農業従事者の減少や高齢化に伴う耕作放棄は、人間活動によって維持されてきた生態系の劣化をもたらし、生物多様性に負の影響を及ぼす。こうした耕作放棄に伴う生物多様性の低下は生態系サービスにまで波及する可能性がある。例えば、生物多様性が低下した放棄地では農業害虫等の少数の生物種が多発生しやすくなり、周囲の農作物に被害をもたらす恐れがある。一方、耕作放棄地がもたらす生物多様性への影響は、植生遷移段階や土壌条件など耕作放棄地の局所環境によって変わることから(Baba et al. 2019 Ecol Eng)、対策を講じる上でその状況依存性を把握することが肝要である。そこで、本研究では、環境条件の異なる休耕・放棄水田において水稲害虫の種構成と個体数を調べ、それらに影響を及ぼす環境条件を明らかにした。茨城県つくば市周辺において、土壌条件(乾燥・湿潤)と植生遷移段階(初期・中期・後期)の組み合わせが異なる耕作放棄田(36カ所)を調査地として、捕虫網を用いた掬い取りにより昆虫類を採集した。その結果、合計10,655個体の昆虫が採集され、その中にカメムシ目・コウチュウ目に属する14種、457個体の水稲害虫が含まれており、特にクモヘリカメムシ、ホソハリカメムシなどの斑点米カメムシ類が優占していた。これら水稲害虫の総個体数を植生タイプの異なる耕作放棄田で比較したところ、遷移初期の乾燥した耕作放棄田で多いことが分かった。次に、斑点米カメムシの優占種の個体数に影響する要因を、植生群落の特徴(群落高・各種の食草の被度等)を説明変数とする一般化線形混合モデルにより解析したところ、これらのカメムシ類は食草となるイネ科草本の被度が高い放棄地ほど、個体数が多いことが分かった。以上の結果より、水稲害虫の個体数は耕作放棄地の局所環境条件に強く左右されることが示唆された。そのため、水稲害虫の多発生を防ぐには害虫の食草が優占しない植生の維持管理が重要であると考えられた。


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