| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-271  (Poster presentation)

九州のブナ林におけるササの消失が土壌特性および微生物呼吸に与える影響
The impact of Sasa loss on soil properties and microbial respiration in beech forests in Kyushu, Japan

*小山田美森, 上森教慈, 菱拓雄, 片山歩美(九州大学)
*Mimori OYAMADA, Kazushige UEMORI, Takuo HISHI, Ayumi KATAYAMA(Kyushu Univ.)

森林の物質循環において土壌微生物は重要な役割を担っている。近年、日本の森林ではシカ食害の増加により下層植生であるササの衰退が問題となっているが、下層植生衰退による表土流亡は、土壌特性および土壌微生物を変化させることで森林生態系に不可逆的な影響を与える可能性がある。本研究では、特にシカ食害が甚大である九州の山岳ブナ林において、ササの有無が森林の土壌特性や土壌微生物に与える影響を調べた。本研究の調査地は、標高950-1500mに位置する山岳ブナ林で、ササがあるサイト(Sサイト;脊振山、冠ヶ岳、諸塚山)とササがないサイト(NSサイト;古祖母山、向坂山、三方岳)を設定した。また、ブナ個体を基準として各サイト5プロットを設定し、下記の項目を調べた。まず、基準のブナ個体から2m離れた地点でリター層の厚さを測定後、単位面積当たりのリター量を計測した。その後、リターを取り除いた下の深さ10cmまでの土壌を採取し、ガスアナライザーを用いた室内実験で、微生物活性の指標である土壌呼吸(BR)、微生物バイオマスの指標である基質誘導呼吸(SIR)を計測した。土壌特性として、土壌pH、強熱減量試験による土壌有機物(SOM)含有量の算出、土壌のC濃度、N濃度、C/N比の測定を行った。リターの厚さと量、BRはSサイトで有意に高かった一方で、SIRはNSサイトで有意に高かった(Nested ANOVA, p<0.05)。しかし、SOM含有量や土壌のC・N濃度、C/N比において、Sサイト-NSサイト間で有意差はなかった。したがって、ササの消失はリターの減少に伴い土壌微生物活性を低下させるが、微生物バイオマスは増加させ、結果として土壌の有機物蓄積量の変動には影響しない可能性を示した。


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