| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


シンポジウム S08-7  (Presentation in Symposium)

日本の火山灰土壌における土壌有機物の蓄積モデルの試案
Challenge for building a carbon sequestration model for Japanese Andosols

*平舘俊太郎, 山北絵理(九州大学)
*Syuntaro HIRADATE, Eri YAMAKITA(Kyushu Univ.)

 火山灰土壌は,世界的には1%にも満たない特殊な土壌であるが,日本では国土面積の約3割を占める主要な土壌であり,その高い有機物貯留能力から,炭素のシンクとしての機能が期待されている.火山灰土壌における土壌有機物蓄積メカニズムやその特殊性については新知見も得られていることから,著者らはこれらを考慮に入れた土壌有機物の蓄積モデルの構築に取り組んでいる.
 土壌有機物は,一つの層位内でも均質ではなく,化学構造や化学特性においても多様な成分の集合体であり,その代謝履歴や安定性・残留性も多様であることが同位体分析等によって明らかになっている.これらの中で炭素貯留において重要なのは安定・長寿命な成分であるが,これらの成分はヒューミン,腐植酸,疎水性フルボ酸画分に相当すること,これらは火山噴出物などの風成堆積物が上方に累積的に堆積する際に埋没されて土層内に留まること,これらの成分の土層内での移動速度は極めて遅いこと(< 1.5 mm/100年)が報告されている(Wijesinghe et al., Geoderma, 374, 114417, 2020).これらの動態は,土壌表面上から供給されたリター等の有機物が,分解・変性を受けながら下層に浸み込んでいく一般的な捉え方と大きく異なる.そこで,火山灰土壌において有機物が累積的に上方に蓄積していくモデルを考案し,累積土壌炭素貯留量を有機物蓄積年数,土壌最表層での最大炭素含有量,分解定数で関係づける式を組立てた(山北・平舘, 土肥要旨集, 2022).これを,累積性火山灰土壌4断面を対象に適用したところ,非常にシンプルなモデルであるにもかかわらず,いずれもR2 > 0.93とよく近似し,分解定数は0.2~0.4/1000年と見積もられた.このモデルでは,式を微分することにより,炭素貯留に関して生態系が平衡に至る過程において炭素貯留速度を時間の関数として求めることもできる,今後,このモデルに改良を加えながら,多くの生態系において炭素貯留速度や平衡炭素貯留量を見積もっていく.


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