| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


シンポジウム S09-3  (Presentation in Symposium)

光強度が頻繁に変化する光環境下での光合成応答に果たす遠赤色光の役割
Roles of far-red light in regulation of photosynthesis in fluctuating light

*河野優, 寺島一郎(東京大学)
*Masaru KONO, Ichiro TERASHIMA(The Univ. of Tokyo)

野外の光環境は、様々な周期で光の強度や波長組成が変化する変動光環境である。変動光は主に光化学系I(PSI)を標的としたストレス要因になりうるなど、定常光が与える影響とは全く異なることから、植物の応答とともにその重要性が注目されている。植物は自身のもつ光合成代替的電子伝達経路などの調節機構を駆使して変動光に対応しているが、これだけでは不十分である。近年、遠赤色光(700 – 750 nm)が変動光下の応答に果たす役割についても注目されている。Emerson(1943)が示したように遠赤色光は、光合成酸素発生や炭酸固定を直接には駆動しない。このため、遠赤色光が光合成に与える影響は無視され続けてきた。しかし、遠赤色光はPSIを優先的に励起する。変動光に遠赤色光を共存させることで、PSIは保護される。変動光によるPSI光阻害の程度は植物種や生育光環境によって様々だが、いずれも遠赤色光の補光によって完全に抑えられる。遠赤色光下では、酸化型のPSI反応中心P700(700+)が増えることと、PSIまわりの循環的電子伝達経路が駆動されることで、過剰な光エネルギーをうまく散逸している。さらに、これまでマイナー経路とされてきたNDH経路が、遠赤色光下では主にPSI保護に寄与する。また、遠赤色光は、変動光下の光合成を促進する。変動周期の緩やかな変動光下、強光から弱光に移行したときに、光化学系IIアンテナでの熱散逸機構の素早い解消をともなうことで、光合成速度が遠赤色光非存在下よりも高くなる。定常弱光下では、遠赤色光による光合成速度の増加は見られない。これらの知見をもとに、変動光下での遠赤色光の役割を議論する。


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