| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


シンポジウム S09-6  (Presentation in Symposium)

森林における樹形の形成要因としての光質の研究展望
An outlook for the study of light quality as a factor affecting architecture of forest-grown trees

*隅田明洋(京都府立大学)
*Akihiro SUMIDA(Kyoto Prefectural Univ.)

森林群落内の同じ階層(高木層,低木層など)のなかでは隣接する個体間で,また,樹高の高い個体と被圧される個体間で,光をめぐる競争が起こる。このような群落状態の森林の競争環境下にある個体は,個体が単独で生育している場合と比べ,樹高成長と幹の太りの成長とのバランス,分枝パターン,樹冠形などの個体の形態(樹形)を変化させる。樹木の研究において,そのような樹形の違いを生じさせる光環境を表す物理量は光合成有効波長光量子束密度やその相対値である,と半ば暗黙の仮定として研究が進められてきた。言い換えれば,赤色光/遠赤色光比(以下R/FR比)で代表される光質が競争環境下の樹木の形態にどのような影響を及ぼすのかについて調べた研究は非常に少ない。R/FR比が植物の形態に影響を与えるメカニズムとしては,R/FR比の違いを感知した細胞質内のタンパクのシグナルが核内に伝わり,そこで発現したシグナル伝達物質が他の器官へ移動することで形態変化を引き起こす,と考えられている。そのような物質のひとつと考えられるオーキシンは植物科学の分野では分枝を制御するホルモンとして名高いが,木材科学の分野では幹の太りを制御するホルモンとして有名である。針葉樹の樹冠で生産され樹皮直下の形成層細胞中を極性移動するオーキシンは,その形成層細胞内濃度が年輪を形成する細胞の分裂活性を制御する要因となっていることが知られている。オーキシンのような形態に影響を与える物質の活性の違いが光質によってもたらされるとすれば,群落内の樹木が光環境に応じた形態の変化をもたらすのは光の強さではなく光質である可能性がある。本講演では,群落下における樹木の個体間競争や個体の生存という生態学的観点からR/FR比が樹木の形態にどのような影響を及ぼす可能性があるのかについて考察し,未確認の研究課題として今後の研究展望の一助とすることにある。


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