| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


自由集会 W01-1  (Workshop)

遺伝子とフィールドから読み解く海洋島の適応放散:小笠原諸島の事例
Necessity of "fieldwork and lab work" two-way approach for adaptive radiation: a case of Ogasawara Islands

*川喜多遥菜(京都大学), 阪口翔太(京都大学), 永野惇(龍谷大学), 長澤耕樹(京都大学), 福島慶太郎(福島大学), 高橋大樹(東北大学), 増田和俊(京都大学), 瀬戸口浩彰(京都大学)
*Haruna KAWAKITA(Kyoto Univ.), Shota SAKAGUCHI(Kyoto Univ.), Atsushi NAGANO(Ryukoku Univ.), Koki NAGASAWA(Kyoto Univ.), Keitaro FUKUSHIMA(Fukushima Univ.), Daiki TAKAHASHI(Tohoku Univ.), Kazutoshi MASUDA(Kyoto Univ.), Hiroaki SETOGUCHI(Kyoto Univ.)

海洋島である小笠原諸島では、島嶼内の環境の違いに応じて同祖集団から放散的に種分化を遂げた現象(適応放散)を複数見ることが出来る。
木本植物では、狭い地理範囲にも関わらず固有のトベラ属樹木が4種分布する。父島ではその内3種(コバトベラ、オオミトベラ、シロトベラ:以降コバ・オオミ・シロ)が側所的に生育しており、コバは乾性低木林、オオミは沢沿いの暗い林内、シロは林冠構成樹種として林縁等に生育するなど、自生環境に応じて樹形や葉などの形質を違えてすみ分けている。したがって小笠原産トベラ属は適応放散によって多様化した可能性が考えられてきた。
発表者はこれまでに、放散の可能性について遺伝解析による検証を行ってきた。その結果、4種は単一祖先に由来する単系統群であり、種間の分岐が浅いことから島嶼内で急速に種分化した可能性が示唆された。
本研究では父島に生育する3種を対象に各種の環境適応戦略を明らかにするとして生理生態分析を行った。

その結果、オオミやシロに比べてコバは葉面積が小さく、柵状組織厚やLMAは高い値を示した。こうしたコバの特徴は、強光・乾燥ストレス環境において蒸散を抑えながら、光合成を行うために適応的であると考えられた。次に野生株と植物園の栽培株を対象にして、コバとオオミの葉の炭素安定同位体比δ13Cを測定した。その結果、コバでは植物園株よりも野生株で値が高かったのに対し、オオミでは野生株で値が低くなっていた。δ13Cが高いことは、比較的少ない水で光合成できることを意味し、乾燥ストレス下にある葉で値が高くなる。植物園では等しく潅水されていると仮定すると、野生株でδ13Cが高いコバは自生地で乾燥ストレスを受けており、一方のオオミは乾燥ストレスの影響は弱いと考えられた。
以上より小笠原のトベラ属樹木は、明暗・乾湿の環境傾度上で、各種が独自の生理生態的地位を確立している可能性が示唆された。


日本生態学会