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一般講演 A1-10

大気CO2濃度の増加による海洋酸性化が生物に与える影響

*栗原晴子,加藤庄司,松井正明,石松惇(長崎大学,海セ)

人間活動により大気に放出されているCO2の約1/2が海洋により吸収され、海水中のCO2濃度は、大気中のCO2濃度の増加に伴い増加し続けている。さらに海水中に溶け込んだCO2は、海水のpHを低下させる。今後300年以内に大気CO2濃度は約2,000ppmまで増加し、全海洋表層のpHは現在の値 (8.1) より0.77低下することが予測されている。近年CO2濃度の増加による海洋酸性化が生物へ与える影響が注目されている。

海水のCO2濃度の増加は、植物プランクトン種によっては光合成速度を促進させることが報告されている。一方で、サンゴなどの炭酸カルシウム (CaCO3)の合成速度を低下させることが明らかにされ、CaCO3骨格を持つ生物への影響が特に懸念されている。これらに加えて、海水の酸性化は生物の代謝活性や呼吸などの生理学的機構に影響する可能性が考えられる。

本発表では、CO2濃度の増加による海洋酸性化が海産生物に与える影響についての我々の研究をはじめ、世界の研究動向について紹介する。これまで我々はCO2がCaCO3骨格に持つ生物の「初期発生への影響」および「長期影響」に注目して研究を行って来た。その結果、ウニ類や貝類の幼生期におけるCaCO3骨格の形成が著しく阻害されること、さらにウニ類では受精率や発生速度が抑制されることが明らかとなった。一方甲殻類のカイアシ類やエビ類を長期間高CO2海水中で飼育した場合、カイアシ類では顕著な影響が見られない一方で,エビ類では生残率、成長率、脱皮頻度が低下することが示され、再生産への影響も示唆された。これらの影響はいずれも生物の個体群の減少へと繋がる可能性が考えられる。本発表ではCO2濃度の増加による海洋酸性化が、生物個体への影響を通して海洋生態系全体にどのような影響を与えるかを論じ、さらに今後の研究について展望する。

日本生態学会