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一般講演 A3-05

土壌シードバンクを用いた湖岸植生の再生:5年間の変化

*西廣淳,西口有紀,西廣(安島)美穂,鷲谷いづみ

霞ヶ浦では、コンクリート護岸化などの影響で失われた湖岸植生帯を再生させることを目的とした事業が2001年から進められている。植生再生には、湖岸の地形を土木的に再生し表層に土壌シードバンクを含む湖底の土壌を撒きだす手法が用いられた。本研究では、事業実施から5年間の植生モニタリングの結果を分析し、今後の順応的管理および類似した他の事業で役立つ知見を整理した。

シードバンクを含む土壌を撒きだした事業地では、事業実施から1年間以内に6種の環境庁レッドデータブック記載種を含む180種が記録された。このうちのカンエンガヤツリやウスゲチョウジタデ(ともに絶滅危惧II類)など、攪乱依存的生活史戦略をもつと推測される種は、ヨシなどの高茎草本を含む植生の密度増加に伴って減少し、3-4年後までにほぼ完全に消失した。ただし、その間に多量の種子生産が確認された。生物多様性保全に資する湖岸植生帯の再生のためには、適度に攪乱が生じる条件を確保することが有効であることが示唆された。

事業実施当初には確認された12種の在来沈水植物は、マツモを除き5年後には大幅に減少あるいは消失した。透明度の低い霞ヶ浦の湖水中では沈水植物は浅い場所にしか生育できないため、ガマ類の侵入に伴う光利用性の低下によって消失したと考えられる。

確認された外来種のうち、事業初期に広範囲で優占していたホウキギクとオオクサキビは、3年目以降著しく減少した。それに対して、セイタカアワダチソウが優占する群落の面積は年を追うごとに増加し、シュート密度が事業開始年の4倍以上になった場所もあった。ただし、湖の平均水位からの比高が5cm未満の比較的湿潤な場所では、侵入は認められるもののほとんど増加しなかった。比高が高い場所を広く造成しないことにより、セイタカアワダチソウの蔓延を防止できることが示唆された。

日本生態学会