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一般講演 B1-09

東シベリアのカラマツ老齢個体における短枝の長枝化現象

*城田徹央(北大低温研),斎藤秀之(北大農),福田正己(北大低温研),T.C.Maximov(シベリア凍土域生物研)

Larix cajanderi(syn. L. gmelinii var cajanderi)は東シベリア永久凍土地域に分布し、低温と乾燥に耐性を示す。カラマツのシュートは長枝と短枝に分化している。一般に短枝は長枝上に着生し、短枝は短枝でありつづけることが多いが、しばしば短枝から長枝へシュート・リバージョンを起こす(以下、長枝化現象)。逆に長枝が伸長を停止し短枝にシュート・リバージョンを起こすこともある(短枝化現象)。短枝は極めて短く、樹冠拡張は長枝によって行われる。また前年の短枝からは1個の短枝しか形成されないが、前年の長枝からは10個前後の短枝が形成される。そのため長枝化現象は樹冠拡大と葉量増大をもたらすプロセスと位置付けられる。ここではカラマツの長枝化現象について基礎的な記載を行った。

老齢個体の5本の枝を調査した結果、樹冠上部の枝では1次枝上での長枝化は観察されなかったが、樹冠下部の枝ではほとんど全ての2次枝が長枝化によって形成されていた。このような長枝化は枝の先端よりも基部側で観察されたので、樹冠拡張よりも葉量増大の機能が大きいと推察された。

老齢個体でも若齢個体でも、枝の損傷部近傍で長枝化現象が観察されたことから、外的損傷がその誘因となっていると考えられる。しかしながら損傷を受けていない枝の基部側でも長枝化が生じていることから、長枝化が樹冠内部の空洞化に対する応答である可能性もある。その一方で、シュート動態の追跡調査と灌水操作実験の結果から、前年の豊富な土壌水分が長枝化を促進する可能性が示唆された。すなわち長枝化の誘因は単一のものではなく、この現象の予測には複数のパラメータが必要であると考えられた。

日本生態学会