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一般講演 B3-02

常緑および落葉広葉樹の道管形成とフェノロジーの関係

*高橋さやか,岡田直紀(京大農)

広葉樹には年輪形成の初期に大径道管を形成し,それ以後小径道管を形成する環孔材樹種と,比較的小径の道管が年輪内に一様に分布する散孔材樹種とがある。その中でも常緑樹種のほとんどが散孔材樹種であり,落葉樹種には環孔材樹種も散孔材樹種も存在することが知られている。葉のフェノロジーと道管形成のタイミングは樹木の生活戦略を決める重要な要素である。本研究では,温帯の広葉樹9樹種(常緑6樹種と落葉3樹種)について道管形成と開葉の時期を調べる事で,各樹種の道管形成と葉のフェノロジーの関係から生活戦略を明らかにし,温帯地域に様々な樹種が生育している仕組みについて考察した。

京大フィールド研上賀茂試験地で各樹種の樹幹の成長錐コアと枝を開葉前から2週間毎に採取し,葉の葉緑素量(SPAD値)を測定した。これらの試料の顕微鏡観察により当年の最初に形成された道管(first vessel :fv)の木化完了時期を調べ,開葉時期との関係を常緑樹種と落葉樹種とで比較した。

その結果,1)散孔材樹種では常緑と落葉とで,開葉時期および開葉に対する枝と樹幹のfv完成時期に明確な違いは見られず,2)環孔材樹種では散孔材樹種とは異なり,開葉直後に樹幹のfvが完成し,3)常緑樹種では落葉樹種に比べて葉の成熟が遅かった。さらに以前から知られている通り,落葉樹種では散孔材樹種の方が環孔材樹種よりも開葉が比較的早いことから,常緑樹種,落葉散孔材樹種および落葉環孔材樹種は以下の通り異なった生活戦略を持っていると考えられる。a)常緑樹種では1年中葉を着けて他の樹種が光合成しない時期にも光合成を行い,b)落葉散孔材樹種では光合成に適した季節により長い期間葉を着けて光合成を行い,c)環孔材樹種では春先に散孔材樹種より大きな道管を形成することで,より多くの水輸送を可能とし,春先の光合成を有利に行うと考えられる。

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