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一般講演 C1-14

社会動態と生態動態のカップリング:湖の水質管理を例に

*巌佐 庸, 鈴木ゆかり(九大・理・生物),横溝裕行(横国大)

湖の富栄養化を抑制するには、リンなどの栄養塩類流入量をおさえることが重要で、しばしば地域住民、事業所、農業従事者など多数の人々による協力が必要になる。しかしそれぞれのプレイヤーの協力への意欲は他のプレイヤーの協力程度に依存し、またその社会における湖水環境への関心の程度に依存する。本研究では、人々の行動の選択と富栄養化を統合したダイナミックスを研究した。

主な仮定は以下の通りである:多数のプレイヤーがいてそれぞれに、リン流出量の少ない協力的なオプションとリン流出量が多い経済的なものいずれかをとる。この行動の切り替えは、経済的コストと環境改善への協力の意欲を示す「社会的圧力」によってきまるが、後者は水質汚染に対する社会的関心、他人と同じ行動をとる傾向などに影響をうける。

昨年は、水質の汚染レベルが流入栄養塩量に比例する単純な場合を報告した。今回は、湖底の泥の巻き上げや大型水生植物群落の消長による非線形の応答を取り込んだ結果を報告する。

モデルは2種類のヒステリシス(履歴効果)をもつ:[1]人々の協力レベルは他人に同調する傾向のために高いレベルと低いレベルが同時に安定になる傾向がある(社会的ヒステリシス)。[2]汚染レベルは、富栄養であるほど底泥からのリンの巻き上げが速いために双安定になる(生態的ヒステリシス)。

これらが絡み合う結果、多数(最大9個)の平衡状態が出現したり、大きな振幅と長い周期の振動が生じたりする。協力の経済コストが小さかったり社会の湖水環境への関心が高いと汚染レベルが下がるけれども、社会での協力レベルは高くなれない。これに対して地域社会での人々の日常的なコンタクトの頻繁で、同調的傾向が強いことは、水質汚染を低く抑えると同時に関心を高く保つ上で非常に有効である。

日本生態学会