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一般講演 F1-03

行動特性が異なる寄主に対するアオムシコマユバチによる操作様式の比較

*田中晋吾, 大崎直太

寄生者の中には、寄主の行動を操って、自らの適応度を高めるものがいる。行動操作を行うためには高度な適応が必要であると考えられており、事実寄主を操作する寄生者の多くは、特定の寄主に特殊化していることが多い。一方で、複数の寄主に寄生し、それらの行動を操作する寄生者もいる。このような場合、操作された寄主の行動は、寄主の種類によらず一様なのだろうか。そして、そのとき寄生者が得られる利益に、寄主間で差はないのだろうか。多寄生性寄生蜂アオムシコマユバチは、寄主幼虫が蛹になる前に体内から脱出して繭塊を形成する。寄主幼虫はしばらく繭塊周辺に留まり、繭塊を高次寄生蜂から防衛する。寄主となる蝶には、エゾシロチョウ・オオモンシロチョウ・モンシロチョウ・エゾスジグロシロチョウがいる。寄主の性質の違いが、繭塊を防衛する効果に反映されるかどうかを検証した。始めに、寄主幼虫の性質を定量化した。寄生されていない寄主の蛹重量と攻撃性を比較したところ、前二者は大型で攻撃性が高く、後二者は小型で攻撃性は低かった。しかし、寄生された寄主では、正常な寄主間で見られた体サイズの差はなくなっていた。体重差が消失した原因は、大型寄主では寄主が十分発育する前に、小型寄主では発育しきってから、寄生蜂が寄主幼虫から脱出するためだと思われた。寄生された寄主はサイズがほぼ同じになるにも関わらず、繭塊防衛行動には大型寄主と小型寄主の間で大きな差が認められた。防衛持続時間と、接触刺激を受けた随伴寄主幼虫の反応を比較したところ、いずれの場合も大型寄主は小型寄主に比べて、有意に高い防衛効果を示していた。結果として、操作によって得られる利益には寄主間で差があると思われたが、アオムシコマユは寄主の種類に応じて、生理および行動の面で適切な操作を行っているものと考えられた。

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