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一般講演 F3-12

湖の水質汚染におけるcatastrophic regime shiftとその抑制

*鈴木ゆかり(九大・理), 巌佐庸(九大・理)

我々は、人のリン排出の行動選択のダイナミクスと、人が排出するリンによる湖の水質汚染のダイナミクスをひとつにしたモデルについて研究している。以前我々が作ったモデルでは、人のリン排出の行動選択には、経済的コストの他に心理的なコストである社会的圧力が影響する。社会的圧力には大きく分けて、[1]社会的関心と[2]同調性に分けられる。[1]社会的関心は、水質汚染が大きくなればなるほど大きくなる。[2]同調性は、他の人が多く協力すればするほど大きくなる。この二つの要因によって、人の行動選択は二年周期やカオスといった、激しく複雑な変動を見せる可能性があることが明らかとなった。しかし、以前のモデルでは湖の水質汚染のダイナミクスは、その年、人が排出したリンの総量であった。近年、陸水学・生態学では陸水学的な非線形性により生じる突然の湖の変化、Catastrophic regime shiftの危険性がさかんに議論されている。そのため、今回は底泥からのリンの巻き上げという非線形性がある湖のモデルを組み合わせた。今回のモデルでは、リンの変動は激しい変動ではなく、変動があっても長い周期のサイクルとなった。このサイクルは、突然湖のリン濃度が上昇し、なかなか減少しないCatastrophic regime shiftを示した。また、リンの減少を促すためには、経済的コストを減らすことや社会的関心を大きくすることが重要であった。しかし、リンを減少させ、かつ人の協力のレベルを高く保つためには、同調性が必要であることがわかった。湖のリン濃度の度合いに関わらず協力のレベルが高いと、湖に変化(護岸工事など)が生じても、リンの上昇がおきにくい。この結果から、湖の水質改善には周辺住民の合意形成や結束も重要だということが明らかになった。

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