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一般講演 G3-07

ブナ葉緑体ハプロタイプと適応的形質との関係:ブナ産地試験地のデータ解析の結果から

*高橋誠(林育セ),後藤晋(東京大院・農),梶幹男,渡邉敦史(林育セ),福田陽子(林育セ北海道)

森林へのニーズの変化に伴い広葉樹造林が増加しているが,その一方で,広域での広葉樹種苗の流通による遺伝子攪乱が危惧されている。そこで,本研究では葉緑体ゲノムのハプロタイプによる系統の違いと開葉フェノロジーおよび葉面積といった適応的形質の表現型変異との関係について検討した。

東京大学北海道演習林(富良野市)に設定されたブナ産地試験地において,北海道から九州に至る16産地から採種・育苗されたブナ258個体を調査対象とした。各個体の葉からDNA抽出し,葉緑体ゲノムのtrnL-trnFとtrnKの2領域に座上している13の1塩基多型サイトの変異をSNP分析し,葉緑体DNAのハプロタイプを決定し,ハプロタイプに基づきクレードに分類した。開葉調査は2006年4月28日から数日おきに実施し,開葉が開始した5月8日以降は開葉終了の5月26日までほぼ毎日実施し,指数による評価を行った。また,各個体の日当たりのよい樹冠表面のシュートを無作為に10本採取し,当年シュートの先端から4枚目の葉を用いて,ソフトウェアSHAPEにより葉面積を測定した。得られたハプロタイプ情報を元に,開葉フェノロジーについては,クレードと産地を要因とする,葉面積についてはクレード,産地と個体を要因とする巣ごもり分散分析を行った。

開葉時期は高緯度の産地で早く,低緯度の産地で遅かった。一方,葉面積は高緯度の産地で大きく,低緯度の産地で小さかった。分散分析の結果,開葉と葉面積の両形質とも,クレード間が5%水準,クレード内産地間が0.1%水準で有意に異なっていた。以上の結果から,葉緑体DNAタイプで異なる系統は,遺伝的に異なる環境適応をしていることが示された。

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