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一般講演 P1-018

房総半島におけるニホンジカの個体群構造:分子データに基づく景観遺伝学的解析からわかったこと

*吉尾政信(東大・生物多様性),浅田正彦,落合啓二(千葉県博),宮下 直(東大・生物多様性),立田晴記(国環研・生態リスク)

本研究では近年分布を拡大している房総半島におけるニホンジカ(Cervus nippon)個体群の遺伝的構造および個体の移動パターンに影響を与える環境要因を推定するため,ミトコンドリアDNAのD-Loop領域と核DNAのマイクロサテライト多型情報に基づく景観遺伝学的解析を実施した.

まず,D-Loop領域の配列を決定した結果(259個体),検出された4ハプロタイプのうち2つのハプロタイプ(Ia,IIa)の頻度が卓越していた.両ハプロタイプ間では分布に不均一性が認められ,Iaは分布の南東部を中心に広く分布したのに対し,IIaの頻度は分布の南西部で高い傾向を示した.D-Loop領域に基づく解析からは道路,ダム,ゴルフ場などの人工構造物が個体の移動を制限している可能性が示された.

次に,マイクロサテライト領域(459個体)を用いて潜在的に存在する分集団の数とその空間分布をベイズモデルに基づき推定した.その結果,房総個体群からは2つの遺伝的集団の存在が検出され,概ねD-Loop領域を用いた解析を支持する結果が得られた.また,残存集団が存在したと考えられる地域で遺伝的異質性が特に高いことが明らかになった.今回の発表では,以上の報告を行うとともに地形,植生タイプ,餌条件などの景観的および生物学的な要因が,遺伝子流動に与えている影響を考察する予定である.

日本生態学会