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一般講演 P1-048

四国南西部、三本杭におけるニホンジカの自然植生への影響について

*奥村栄朗,酒井敦,奥田史郎,伊藤武治(森林総研・四国)

四国では過去の拡大造林により人工林率が非常に高くなっている。天然林も多くは二次林であり、原生状態に近い天然林はわずかしか残されていない。四国南西部の愛媛・高知県境にある三本杭(1226m)周辺(滑床山および黒尊山国有林)には、ブナ、カエデ等の落葉広葉樹に、モミ、ツガ、アカガシが混じるこの地域特有の天然林がまとまって残されている。また山頂部等にはササ原の広がる場所があり、その景観は登山客に親しまれ、国立公園特別地域にも指定されている。ところが近年、この一帯でササ原が裸地化し、また林内においては林床植生の消失、小・中径木の減少等、森林の衰退現象が生じてきた。その原因としてニホンジカ(以下、シカ)の影響が疑われていたが、過去に調査研究は行われていなかった。そこで、シカが当地の自然植生に及ぼしている影響の実態を明らかにするため、無立木地の現況、シカの生息状況、天然林での剥皮被害実態等について調査を行った。

1.航空写真から無立木地の分布を調べ、現地を踏査した。シカの不嗜好植物種の繁茂状況等から、最近10年ほどの間にシカの採食圧によりササが急速に衰退したと推察された。

2.山頂周辺で糞粒法によるシカの生息密度推定を行った。岩本ら(2000)の計算プログラムを使用し、30頭/km2を超える生息密度が推定された。

3.山頂周辺に調査プロット(0.10-0.12ha)6ヶ所を設定し剥皮被害調査を行った。いずれの林分も下層植生はほとんど無く、立木は高頻度で剥皮被害を受け、疎林化(一部では裸地化)あるいは不嗜好樹種の優占する林相への変化が進行していた。

調査結果から高密度のシカによる自然植生への影響は明らかであり、貴重な天然林を保全するため早急な対策の必要性が示された。

なお、この研究は四国森林管理局の委託により行った。

日本生態学会