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一般講演 P1-078

カワシンジュガイの絶滅はさまざまな環境の変化によって起こる

*秋山吉寛(北大地球環境科学),岩熊敏夫(北大環境科学院)

カワシンジュガイを含むイシガイ目貝類の多くは、宿主(魚類や両生類)へ寄生するグロキディウム幼生期を経る。カワシンジュガイ科貝類の幼生は他のイシガイ目貝類より小型で数は非常に多い。そのため、定位性の強い低密度の宿主にも効率よく寄生する。その反面、浮遊幼生の生存期間は短く、小型で十分な栄養を要するために寄生期間が長く、寄生幼生は宿主の免疫排除を受けやすい。さらに変態後の稚貝は小型で生存能力は低い。これらの特徴は幼生のサイズと生存能力のトレードオフにより生じる。幼生の小さな本科は、他のイシガイ目貝類より成長初期に環境の影響を受けやすい。そのため、本科稚貝の生残数は環境変動に伴い大きく変化する。しかし本科貝類は190歳に達する長寿命であり、生存に不適な環境が数十年続いても安定して子孫を残す。

本種は環境省によって絶滅危惧2類に指定されており、他の絶滅危惧1、2類に指定されている淡水性二枚貝より広範囲に生息する。本種の減少と絶滅の原因は、継続的な環境改変と成長初期の脆弱さが複合して起きているのでは?という視点から個体群を比較した。

個体群絶滅は特に1. 気温が高く、2. 河川規模の小さい地域で起きていた。また、3. 宿主密度が低い、4. 浮遊幼生の生存時間が短い、5. 宿主から無事に脱落および着底できる稚貝が少ない、6. 稚貝にとって生息環境が不適である、といった要素が複合して世代交代を抑制し、個体群縮小と絶滅が起きると考えられた。これらの個体群縮小・絶滅原因のうち、1. 、2. 、3. はイシガイ目貝類に共通し、4. 、5. 、6. は、本科貝類が強く影響を受ける原因である。

これらの結果から、カワシンジュガイは特異な生存戦略のために生息環境の変化の影響を受けやすく、全国的な個体群の減少や絶滅が起きていると考えられた。

日本生態学会