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一般講演 P1-112

生物多様性から見た河畔林の効果

小幡和男(茨城県自然博物館)

小貝川は,栃木県那須烏山市に水源を発し,茨城県取手市で利根川に合流する延長112 kmの河川である.その流路のほとんどは平野部であり,特に中下流域の河川勾配が小さいという特徴をもっている.その河川敷の湿生植物群落には,ハナムグラ,チョウジソウ,ノカラマツなど,20種を超える絶滅危惧種(環境庁,2000)の生育が確認されている.

本研究は,小貝川において,これら絶滅危惧種を含む種々の植物がどのような群落環境に生育しているのかを捉えることを目的とする.

現地調査は,2004年4月から10月の期間,中流部の下館市(筑西市)から利根川との合流部に近い藤代町(取手市)まで14地点で,ライントランセクト法による植生調査を実施した.各地点で堤防の上面から堤外に向かって本流の水際までラインを引き,ライン上の植物群落を相観によって区分し,区分した単位ごとに出現種を記録した.

その結果,14のラインにおける延べ121の単位に,絶滅危惧種14種,外来種55種を含む352種の植物の生育を確認した.

そして,121の単位を出現種によってクラスター分析した結果,単位は大きく3つのタイプにまとめられた.タイプ1は堤防の斜面と直下の年に数回の除草を行う管理地,タイプ2はヨシ・オギの優占する群落,タイプ3はクヌギ,ハンノキ,ヤナギ類などがつくる河畔林であった.

さらに,それぞれのタイプごとに,総出現種数,絶滅危惧種数,外来種数を単位あたりの平均値で比較すると,タイプ1,タイプ2,タイプ3の順に,総出現種数21.8,20.7,36.1,絶滅危惧種数0.1,0.7,1.8,外来種数7.2,3.6,2.3となった.

この結果から,小貝川の河川敷では,河畔林が,絶滅危惧種の生育環境,湿生植物群落における種多様性に貢献していることが示唆された.

日本生態学会