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一般講演 P1-135

琉球列島のサンゴ礁における陸水流入と栄養塩動態

*森本直子(琉球大・理工), 酒井一彦(琉球大・熱生研), 長尾正之(産総研・地質), 鈴木淳(産総研・地質)

琉球列島のサンゴ礁では、1998年の世界的なサンゴの白化以降、回復に地域間で大きな差が見られる。近年の研究により、サンゴが減少し、同所的に空間を争う藻類へと群集構造が変化するのは、過剰な漁獲による藻食圧の低下と栄養塩濃度の増加であると考えられている。しかし、いわゆるサンゴ礁の富栄養化の閾値となる栄養塩濃度(DIN 1μM,PO4-P 0.1-0.2μM)は、国内の海域の環境基準に比べて低く、検出限界以下とされることも多いため、その濃度すら未だ明らかにされていない。そこで本研究では、琉球列島の地域間の栄養塩濃度の比較を行うと共に、サンゴが比較的健全に維持されている石西礁湖において、栄養塩濃度の長期調査を行った。

沖縄島と慶良間諸島のサンゴ礁斜面、石西礁湖における栄養塩濃度は、沖縄島が他の地域よりも有意に高く、閾値に達する地点が見られた。一方、沖縄島の礁斜面における塩分は外洋よりも低く、沖縄島周辺のサンゴ礁では、栄養塩濃度が高い陸水の流入によって、栄養塩濃度が増加している可能性が示唆された。また長期調査によって、石西礁湖内の栄養塩濃度は外洋に比べて有意に高いことが分かった。特にサンゴ礁に囲まれた閉鎖的な礁湖における栄養塩濃度は、夏に低く冬に高い傾向が見られた。しかし、閾値に達することはなかった。塩分は、採水日以前の降水量によって礁池内で外洋より高い時と低い時の両方が観測されたが、塩分と栄養塩濃度に有意な相関関係は見られなかった。このため、石西礁湖では陸水流入が栄養塩濃度に及ぼす影響は小さいものと推測された。しかし、周辺地域での土地利用の変化は進行しており、陸域からの栄養塩の流入量が増加する可能性もある。石西礁湖を含め、琉球列島全体でモニタリングと対応策の検討が必要である。

日本生態学会