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一般講演 P1-141

異なる水環境の撒き出し実験による湿地草本群落の種組成の違い

*田中夏美,林田光祐(山形大・農)

多くの自然湿地が水田と化し、その水田も減反による耕作放棄と乾燥化が進み、多くの水生・湿生植物が減少・消失しているため、湿地を再生・保全する必要性は高い。埋土種子を用いて湿地草本群落の再生や維持管理を試みる場合、水管理は重要な要因になると考えられる。そこで本研究では、水環境の違いが埋土種子より成立する湿地草本群落の種組成に与える影響を撒き出し実験によって調べた。

撒き出し実験に用いた土壌は、耕作放棄後少なくとも7年以上経過している山形県鶴岡市の耕作放棄水田より採取した。農学部附属演習林苗畑に、撒き出し面積1m×1m、浸水条件(水位約16cm)、冠水条件(水位約3cm)、湿潤条件(水位約0cm)の3条件を3反復、合計9つ造成し、土壌の厚さ約20cmになるように撒き出した。4月中旬〜下旬に撒き出しを行い、1ヶ月ごとに成立植生の種数や個体数を調査した。

調査期間中に出現した種数は、浸水条件21種(湿生種20種)、冠水条件52種(湿生種43種)、湿潤条件46種(湿生種22種)であり、合計72種であった。出現総種数の平均値は、冠水条件と湿潤条件が浸水条件より有意に多いが、湿生種の種数は冠水条件が他の水位条件より有意に多かった。また総個体数は水位条件による有意な差は認められなかったが、非湿生種の個体数は湿潤条件が他の水位条件より有意に多かった。以上より、水環境によって成立植生の種組成は異なり、埋土種子を用いて湿地草本群落の再生を行う場合、浸水条件や冠水条件のような常時水位がある環境では湿生草本群落が成立するが、湿潤条件では非湿生種が優占すると考えられる。

日本生態学会