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一般講演 P1-148

ため池の生物多様性保全に必要な空間スケールについて

赤坂宗光(国環研),角野康郎(神戸大),三橋弘宗(兵庫県人と自然の博物館),青木典司(神戸市),高村典子(国環研)

生物多様性を保全するためには,影響を与える環境要因だけでなく,その要因が作用する空間スケールを明らかにする必要がある.本研究ではため池に注目し,種多様性と関連のある環境特性(地形とため池の物理構造,周囲の土地利用)とその空間スケールを調べた.ため池に特徴的な生物のうち,水生植物とトンボに注目した.水生植物は全種および3生活形(沈水,浮葉,抽水)の出現種数,トンボ成虫は全種および,移動能力に応じて分類した3種群(低,中,高移動種群)の出現種数を多様性の指標として用いた.空間スケールはため池の周囲5-5000mに注目した.調査は2000-02年に兵庫県東播磨地方の計55か所のため池で行った.結果,水生植物49種(沈水13,浮葉14,抽水22種)と,トンボ成虫56種(低移動7,中移動23,高移動26種)が記録された.全水生植物の出現種数は,ため池周囲750mまでのスケールで説明でき,そのスケールは浮葉,抽水植物の方が沈水植物よりも大きかった.トンボでは,全種,中,高移動度種群では周囲1000-2500mのスケールが最も関連していたが,低移動度種群は周囲5mが関連していた.市街地面積率の増加に伴い,水生植物,トンボ成虫の全指標で出現種数は減少した.周囲の淡水域面積率は水生植物とトンボ成虫の全出現種数,浮葉植物での出現種数に正の影響を与えていた.これらから広範囲の土地改変の影響を,トンボの種多様度は水生植物のそれよりも,水生植物の間では浮葉,抽水植物が沈水植物よりも,トンボの間では移動性の高い種群が低い種群よりも受けることが示された.ため池の生物多様性保全には市街化,淡水域の連続性の保全に注意を払う必要があることも示唆された.

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