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一般講演 P1-158

高山草本植物ミヤマリンドウの多年草の役割

川合 由加, 工藤 岳(北大・環境科学)

ミヤマリンドウは本州から北海道の高山帯に広く分布する多年性草本である。毎年、新たな常緑葉を生産、蓄積しながらシュート伸長をおこなうため、齢とともに葉数が増加する。そして、ある程度の葉数に達すると先端に花芽を形成し、開花・結実後はラメット全体が枯死する。このようにミヤマリンドウがある繁殖サイズに達するまで古い葉を複数年に渡って維持する理由として、これら古い葉は光合成機能以外に資源の貯蔵器官としても機能していると考えられる。このユニークな生長様式を持つミヤマリンドウの葉の生理機能について調べた。

ラメット間の資源転流を断つために1繁殖ラメットを残してジェネット内の他のラメットを切除した。そして1)コントロール、2)蓄積葉の光合成機能を妨げる被覆、3)蓄積葉の資源供給を絶つ摘葉の3処理を雪解け直後に各ラメットに行い、結果率、種子数を測定した。さらに、繁殖フェイズを通してのラメット内での資源転流様式を明らかにするため、花芽形成・開花・結実期に繁殖ラメットを採取して葉面積、乾燥重量、窒素含有量を葉位ごとに計測した。

結実種子数は摘葉処理で減少した。LMA(乾燥重量/葉面積)はすべての葉位で開花・結実期に減少し、繁殖器官への炭素の転流がおきていることが示された。さらに、新しい葉からの窒素の転流もおきていた。以上の結果から、ミヤマリンドウの蓄積葉は繁殖のための資源貯蔵器官として機能していること示唆された。このような経年生長様式は、地下部に貯蔵器官を持たないミヤマリンドウにとって、年間の生育期間が非常に短い雪田環境での生育を可能とする重要な生活史特性である。

日本生態学会