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一般講演 P1-170

林冠閉鎖のタイミングは春植物の生産と繁殖にどう影響するのか?

*井田崇(北大・院・環境科学),工藤岳(北大・環境科学)

冷温帯落葉広葉樹林下の光環境は,林冠木の展葉に応じ劇的に変化する.春植物は,雪解けから林冠閉鎖までの短期間で光の豊富な環境に適応している.一般に春植物の光合成速度は高く結実率もまた高い.しかし,雪解けが遅い年には,当年の種子生産は制限される.これは雪解け時期に応じて,春植物の出現が遅くなるのに対し,林冠木の展葉は,それほど影響を受けないため,高光環境下での生育期間が短くなり,春植物が獲得できる光資源量が減少してしまうためかもしれない.多回繁殖型植物の適応度は,生涯繁殖成功度により示されるため,繁殖期間における資源分配は,当年の繁殖だけでなく,生存や将来の繁殖のための貯蔵とのトレードオフにより決定される.このため,生育期間中における光資源不足は,当年への繁殖投資に影響を及ぼしうる.本研究では,多回繁殖型春植物エンレイソウにおいて,植物の成長量,生産量,同化産物の分配パターンの季節的な変化と,その光資源に対する応答を捉え,当年の繁殖成功にどのように影響するのかを明らかにすることを目的とした.

調査は北海道の落葉広葉樹林下において行った.自然状態と,早期の林冠閉鎖を想定した被陰処理を開花後に行った個体について,繁殖フェーズ(花期,結実初期,結実後期)におけるバイオマス,光合成速度,炭素分配を調査し,当年の繁殖成功として結実率を計測した.なお,炭素分配は安定同位体13Cを用いたトレーサー実験により,葉より吸収された同化産物の分配パターンを計測した.

被陰処理による効果は,地上部の成長量ではみられなかったが,光合成速度の低下,結実率の減少を引き起こした.また同化産物の分配パターンは繁殖シーズンの中で変化し,地下部への転流が先にされ,その後果実への転流が行われた.こうした結果は,当年の資源獲得量の不足が当年の繁殖成功の低下を引き起こしていることを示唆している.

日本生態学会