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一般講演 P1-171

開葉・開花フェノロジーが異なるウルシ属2種における繁殖投資と繁殖コスト

*松山 周平(京大院・農),嵜元 道徳(京大フィールド研)

開葉・開花フェノロジーの違いが繁殖投資とコストに及ぼす影響を明らかにするために、同属の雌雄異株性樹木でありながら開葉・開花フェノロジーが異なるヌルデとヤマウルシの繁殖投資とコストを、樹木の階層的なモジュール構造に注目し、比較解析した。

当年生シュートレベルでの繁殖投資は、花期には雄の方が、通年では雌の方が、2種共に大きくなっていた。しかし、繁殖シュートが翌年も繁殖シュートをのばすか否かによって評価した繁殖コストは種間で異なり、ヤマウルシのみで認められた。即ち、ヌルデは継続して繁殖したのに対して、ヤマウルシは継続して繁殖していなかった。一方、当年生シュートレベルでの葉量の雌雄差は、ヤマウルシでは認められなかったのに対して、ヌルデでは雌の方が有意に大きく、シュートレベルでの補償行動が発達していた。また、繁殖シュートが翌年伸ばす当年生シュート数とその繁殖割合では、ヤマウルシでは平均1本の栄養成長シュートを伸ばしていたのに対して、ヌルデは平均2本のシュートを伸ばし、その内の1本は繁殖しておらず、ヌルデにおける補償的なシュート構造の発達を示唆していた。さらに、シュートレベルでの繁殖コストの種間の違いは、4年間にわたる個体レベルでの繁殖シュートの割合(繁殖枝率)にも反映されており、ヤマウルシの繁殖枝率は隔年に大きく変動していたのに対して、ヌルデは虫害を受け低下した年があったものの、全般的には、経年的に高くなっていた。

以上のことから、シュートレベルの補償行動の有無は、繁殖投資と栄養成長投資の時期をずらしているか否かという開葉・開花フェノロジーの違いから生じていることが推察された。さらに、2種における個体レベルでの繁殖枝率の年変動の違いも、開葉・開花フェノロジーの違いによって引き起こされていることが推察された。

日本生態学会