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一般講演 P1-178

花と種子の生産コスト:フクジュソウの繁殖コストの評価

堀端聡,長谷川成明,*工藤岳(北大院・地球環境)

春植物は、雪解けから林冠閉鎖までの短期間に成長と繁殖を同時に行う.限られた期間に繁殖と成長への資源分配がどのように行われているのかを知ることは、春植物の生活史特性を明らかにする上で重要である.春植物の繁殖コストを評価するために、典型的な春植物であるフクジュソウ(キンポウゲ科)を用いて、摘葉実験と果実処理実験(コントロール・果実被陰・果実除去)を組み合わせて行い、その後の繁殖と成長を2シーズンに渡り調査した.フクジュソウは雪解け直後に開花し、開花期間中に急速に葉を成長させ、初夏の果実成熟期に地上部は枯死する多年生草本植物である.摘葉処理と果実処理は、ともに開花終了時に行った.実験の結果、生存率には処理による違いが見られなかった.翌年の開花頻度と植物体サイズは摘葉処理により低下したが、果実処理はその後の成長や繁殖活性には影響しなかった(繁殖コストは検出されなかった).果実被陰により種子生産は低下したが、摘葉処理は当年の種子生産に影響しなかった.安定同位体を用いたトレース実験の結果、当年の光合成の稼ぎは果実生産には使われず、貯蔵器官に蓄えられ、また、果実自身の光合成により種子生産をサポートしていることが明らかとなった.以上の結果から、当年の種子生産と将来の成長との間にトレードオフ関係は希薄であり、種子生産コストは発達した地下器官の蓄えと果実自身の光合成によりまかなわれていることが明らかとなった.フクジュソウで見られる安定した種子生産は、短期間の強光環境を有効に利用した地下器官の発達と、果実自身の自立性により達成されている.

日本生態学会