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一般講演 P1-207

冬緑性草本ヒガンバナにおける窒素の動態

*西谷里美(日本医大・生物),中村敏枝(首都大学東京・生命科学),可知直毅(首都大学東京・生命科学)

ヒガンバナ(Lycoris radiata)は,冬緑性の多年生草本で,夏季を地下器官(根と鱗茎)のみですごす。発表者らは,葉の存在しない期間(6月〜9月)における根の機能に着目して研究を進めており,これまでに,根の呼吸速度が7月にピークを持つことを報告した(生態学会53回大会)。本発表では,夏期における根の消長と窒素の吸収について報告する。

根の消長は,個々の根にマークする方法で調べた。ポットに植えた10個体を,1―2ヶ月ごとに堀上げ,根の現存数,新根数,枯死数を記録した後,新根にマークをしてポットに埋めもどした。また,サンプリングによる撹乱の影響をみるために,堀上げの間隔を5ヶ月程度と長くした別の10個体についても同様の観察を行った。窒素の分析に用いた材料は,市販の鱗茎を,2002年夏から東京都立大学の実験圃場で育成したもので,2003年9月から1年間,1ヶ月ごとに10個体を採集し,各器官の乾燥重量と窒素濃度を測定した。

新根の出現は,葉の枯死が始まる4月以降も1ヶ月に1,2本の速度で続き,古い根の枯死を補っていた。その後7月半ばから一旦低下したが,8月半ばには上昇に転じ,展葉開始直前の9月にピークとなった。夏季における根の高い呼吸速度や新根の出現は,ヒガンバナの根が夏季にも何らかの機能を担っている可能性を示唆する。しかし,2004年5月下旬(葉が完全に枯死した時期)と9月初旬(鱗茎内で葉が急速な成長を始める直前)における,個体あたりの窒素量の比較からは,この期間に窒素吸収が行われることを示唆する結果は得られなかった。

日本生態学会