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一般講演 P1-208

小笠原生育樹種の機能タイプと樹幹木部構造との関係

*矢崎健一,石田厚(森林総研),中野隆志(山梨環境科学研)

■樹木の樹幹は、葉への通水経路である一方、葉で生成された同化産物によって肥大成長を行う。従って、ある樹種の機能タイプは、葉の生理・形態的特性と樹幹木部の組織構造との相互関係によって決定されることが予測される。しかしながら、葉や木部構造の特性が機能タイプの決定にどの程度相互に影響するのか明らかではない。本研究では、亜熱帯性で比較的乾燥しやすい小笠原父島の乾性低木林から湿生高木林に生育する樹種において、機能タイプの決定に木部構造がどの程度寄与するのかを明らかにすることを目的とした。

■葉の生理的特性として、現地に生育する20樹種の複数個体において、葉の寿命、ガス交換特性および水分特性を求めた。また、樹幹より採取した木片から容積密度を測定、その後に顕微鏡観察用切片を作成し、木部構造を解析した。

■木部構造と葉の生理的特性とに相関関係がみられた。特に道管平均断面積と葉の各特性との相関が顕著で、ガス交換速度とは正の(r=0.6 - 0.8)、葉の寿命やLMAとは負の(r=-0.4 - -0.8)が相関が認められた。一方、容積密度や道管数(単位面積あたり)は、ガス交換速度とは負の、葉の寿命やLMAとは正の相関が認められた。

■主成分分析を行った結果、第一主成分に60%程度の寄与率が認められた。第一主成分には、正方向に容積密度、葉の寿命、LMAなどが含まれ、負方向には道管平均断面積やガス交換速度などが含まれていた。従って第一主成分は「樹体維持の投資の程度」を示していると考えられる。乾性低木林を構成する種の多くは正に、マメ科や先駆性の樹種は負に、湿生高木林を構成する種の多くは中間の値となった。

■以上の結果より、小笠原の樹種の機能タイプは、木部道管と容積密度による「樹体維持の投資の程度」によって説明できるといえる。

日本生態学会