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一般講演 P1-237

樹木実生の根系発達様式ー窒素施肥レベルに対する反応の種間比較ー

*藤巻玲路, 酒井暁子,金子信博(横浜国大・環境情報)

神奈川県北西部にある丹沢山地は、関東平野に隣接するため大気からの窒素降下物の影響が危惧されている。本来とは異なる窒素条件下では個々の樹木の成長様式が変化し長期的に森林構造に影響を与えることが懸念される。本研究では、丹沢山地の先駆性樹種であるアカメガシワ・ムラサキシキブ・キブシ、土地的極相種であるイヌブナ・イロハモミジ、中間種であるクマシデ・イヌシデ・ウリカエデの実生について成長様式を調べた。本講演では、植物による土壌の資源獲得に関係の深い根系発達について、その種間差と窒素施肥への反応の違いについて報告する。

2005年秋に丹沢山地で種子を採集し、翌年4月に横浜国立大学に設置したビニールハウスに播種した。土壌には風化花崗岩を供試し、2段階の窒素施肥(通常施肥・高施肥)を行った。通常施肥では一般の降雨にみられる窒素量、高施肥ではその10倍量に設定し、該当量の硝酸アンモニウム溶液を週に一度施与した。9月に各3個体を採集し、器官別に乾燥重量を測定した。根系については、主根と側根系を切り分け、一個体あたり3本の側根系について根端数・根長を計測した。

植物個体の地上部:地下部(T/R)比はイヌブナやウリカエデで低く、特に主根へのバイオマス配分が顕著であった。側根系の形態においては、極相種・中間種では先駆性樹種に比べ根端数の密度が高く、複雑な根系構造を持つことが示唆された。

高い窒素レベルに対する反応として、先駆性樹種は個体重・T/R比の増加を示したが、イヌブナやカエデ類ではこれらの増加は認められなかった。一方、イヌブナやシデ類では根端数の密度が減少したが、先駆性樹種では変化しなかった。これらのことから、窒素レベルの変化に対して、先駆性樹種ではバイオマス配分を、極相・中間種では根系の形態を変化させる傾向にあると考えられた。

日本生態学会