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一般講演 P2-006

土壌呼吸のホットスポット−ボルネオ島熱帯林の林床に出没する謎のCO2発生−

*大橋瑞江(Finnish Forest Research Institute), 山根正気(鹿児島大・理), 久米朋宣(九大・農), 片山歩美(九大・農), 鈴木雅一(東大・農)

熱帯林における炭素収支は、温暖化など地球規模の気候変動と密接な関係がある。熱帯林は光合成によって炭素を固定し、大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の上昇を緩和している。しかし一方で、生態系内の多様な動植物からは呼吸によって大量の炭素が排出されており、特に土壌からのCO2放出(土壌呼吸)は生態系全体の50−95%を占める。土壌呼吸は主に土壌中の生物と根の呼吸に由来しており、これらの生物活動は土壌環境や土壌構造の影響を受けて容易に変化する。よって土壌呼吸量もまた時間的・空間的に多様に変動し、生態系の炭素固定量に影響していると考えられる。したがって熱帯林の機能を十分に理解する上で、土壌呼吸の変動パターンとその発生過程を知ることは不可欠である。しかし、熱帯林の多くが、野外調査が困難な地域にあるため、これまで土壌呼吸の変動特性については未だ十分に情報が蓄積されてこなかった。そこで本研究では、2001-2006年にかけてマレーシア・サラワク州の原生林で土壌呼吸の時空間分布の測定を行い、その変動特性の解明を試みた。

調査の結果、土壌からのCO2放出は時間的・空間的に激しく変動するだけでなく、林内にはCO2発生が集中的に発生する場所(ホットスポット)が多数存在することが発見された。ホットスポットから放出されるCO2量は通常の6倍に達し、発生する場所・時期ともにランダムに変化した。ホットスポットにおけるCO2発生量は、生態系全体の炭素固定能力に匹敵する大きさであり、熱帯林の炭素収支におけるホットスポットの重要性が示唆された。ここでは、ホットスポットの発見報告に加え、従来の知見を元にその発生源について考察する。

日本生態学会