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一般講演 P2-011

北極の隆起海岸堆積物中に存在する有機炭素とその分解の可能性

*中坪孝之(広島大・院・生物圏),吉竹晋平(広島大・院・生物圏),内田雅己(極地研),内田昌男(JAMSTEC),小泉博(岐阜大・流域圏)

北極の沿岸域には氷河後退にともなう隆起によって形成された隆起海岸地形が多く見られる。隆起海岸堆積物中には、隆起以前に堆積した古い有機物が含まれている可能性があり、それらを量的に把握することは、北極陸上生態系の炭素循環を理解する上でも重要である。本研究では、高緯度北極スバールバール諸島ニーオルスン(北緯79度)の氷河後退域における炭素循環研究の一環として、隆起海岸堆積物中に存在する有機炭素とその年代測定を行った。

調査対象とした堆積物は、海抜約20mの発達した植生の下に見いだされ、地表面下約20cmの層には貝殻が含まれていた。この貝殻の炭素年代(慣用年代)は11080±140 yrs BPであった。一方、同じ深さの土壌有機物の炭素年代は22380±90 yrs BPという結果になり、より古い時代の有機炭素が混在していることが示唆された。また、10-12.5cmの層でも11440±50 yrs BPという値が得られ、少なくとも10cmより深い層では、隆起前の古い炭素が多く含まれていることが示唆された。地表面下20cm以深の層の有機炭素含有率は1-2%で、より浅い層と同程度であった。堆積物の炭素含有率と密度から求めた、深さ10-40cmに存在する有機炭素量は約3.7 kgC m-2で、これは有機物層と表層10cmまでに存在する炭素量より大きかった。このことから、同地点の土壌有機炭素の相当部分を古い時代の炭素が占めていることが推測された。これらの堆積物中の有機炭素が微生物によって利用される可能性について検討した。

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