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一般講演 P2-062

うまい草とまずい草の存在がシカの個体群動態に及ぼす影響

*大野愛子(大阪府大院・理),難波利幸(大阪府大院・理)

近年、シカを含む有蹄類が分布を広げ、世界の多くの場所で著しく増加している。過剰な有蹄類は森の下層に大きいダメージを与え、植食圧に耐えられるまずい草へと植生の種構成を変化させる。しかし、草食への防御はコストがかかるので、草食動物が乏しいかいない環境では、防御しない種は防御している種よりも優位になり、シカの崩壊後しばらくするとおいしい草が再び増えると考えられる。

有蹄類―植物の動態を理解するために、シカ、おいしい草、まずい草の3つの個体群のLotka-Volterraモデルを考える。

ここで、x1,x2,x3はそれぞれおいしい草、まずい草、シカの密度である。

シカはおいしい草だけを食べると仮定する。草の内的自然増加率をr1,r2,種内競争係数をa11,a22,種間競争係数をa12,a21とする。シカの死亡率をr3,植食率をa13,植食によるシカの増加率をa31とする。(1)おいしい草は競争で優占(a12< r1a22/r2 ,r2a11/r1< a21),そして(2)自己抑制はおいしい草で弱いという仮定の下で、もしシカの死亡率(r3)が低く、転換効率(a31/ a13)が高ければ、強い種間競争は個体群を振動へと導く。この場合に、シカがいなくて、おいしい草かまずい草のどちらかが優占している2つの定常状態(r1/a11, 0, 0) ,(0, r2/a22, 0)は両方とも不安定である。しかし、パラメータにより、軌道はヘテロクリニックサイクルのようなものに近づき、定常状態(r1/a11,0,0)の近傍で長い時間を過ごした後、シカが爆発的に増え、うまい草が減ってシカ個体群が崩壊した後、まずい草だけの状態(0,r2/a22,0)が長く続く。それゆえに、多重不安定状態の出現がシカの大発生と森の下層の種の構成の変化を説明するかもしれない。

日本生態学会