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一般講演 P2-074

オオオサムシ亜属種間における浸透性交雑の制限要因

*長太伸章(京都大・院・理), 久保田耕平(東京大・院・農), 八尋克郎(琵琶湖博), 曽田貞滋(京都大・院・理)

種間交雑は生殖隔離機構の発達など、進化的・生態的に大きな影響を及ぼす。野外で雑種個体が得られる種間以外では交雑の状況を把握することは難しいが、交雑にともない遺伝子流動が生じる浸透性交雑の場合、浸透した遺伝子を利用して稀な交雑や過去の交雑について推定することが可能である。日本固有のオオオサムシ亜属は多くの種に分化しているが、雑種個体や交雑帯は限られた種間・地域でのみ見られる。一方、これまでの分子系統学的研究から、同所的に生息する種間でもミトコンドリアの系統・ハプロタイプを共有しており、自然交雑帯がない種間でも浸透性交雑が起きていると推定されている。しかし、ミトコンドリアの浸透の頻度,交雑地域,浸透性交雑を制限する要因は殆ど分かっていない。

本研究ではオオオサムシ亜属におけるミトコンドリアの浸透過程を推定するために、本亜属の多様性が最も高い近畿・中部地方において複数種が生息する18地域から6種約1500個体を採集し、ミトコンドリアND5遺伝子の配列をもとに集団遺伝学的解析を行った。その結果、隣接地域の同種よりも同一地域の他種との間で遺伝子流動が高い種が存在し、複数の地域で浸透性交雑が起きていると推測された。また、同一地域内の種間の体長差と遺伝的分化には相関が見られ、体長差が小さいほど分化は小さかった。すなわち体長差が小さい種間ほど交雑が起こりやすい。さらに、特に浸透が頻繁な中型2種について遺伝子流動を最尤推定したところ、種間の遺伝子流動には方向性があり、交尾片の形状と関連した一方向性の浸透が起こっていることが示された。これらのことから近畿地方のオオオサムシ亜属では地域ごとに独立に交雑が生じており、体長差や交尾片の形態によって浸透性交雑が制限されていると考えられる。

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