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一般講演 P2-089

ケヤキ天然集団における当年生実生の動態:発生と生存に及ぼす要因は何か?

*岩泉正和,高橋誠,矢野慶介,小野雅子,久保田正裕,宮本尚子(林木育種センター),生方正俊(JICA)

ケヤキは、有用広葉樹として需要が高く、遺伝資源としての保全が重要視されている。しかし、ケヤキ集団の保全に重要なケヤキの更新特性については殆ど知られていない。本研究では、成木個体の分布や、林床植生の被覆及び林冠の開空度がケヤキ当年生実生の発生と生存に与える影響を検討した。

結実が大豊作であった2005年の翌年の2006年5月、福島県昭和村のケヤキ天然集団に40m×50mの調査区を設定した。調査区内(S区;20箇所)と調査区外のギャップ内(G区;3箇所)に実生調査コドラート(0.5m×2.0m)を設定し、ケヤキ当年生実生の消長を10月中旬まで2〜4週間の間隔で調査した。各コドラートでは、高さ1m未満の林床植生の被覆度の指数評価、及び全天写真による高さ1m以上の開空度の解析を行った。また、調査区を含む約3.8haの範囲内のケヤキ成木45個体の位置を測量した。

当年生実生の累積発生数はS区とG区でそれぞれ33.8個体/m2及び132.2個体/m2で、発生数とコドラートの周囲15〜30m内のケヤキ成木個体の累積BAには有意な正の相関が見られた。また、10月中旬の生存数はS区及びG区でそれぞれ8.4個体/m2及び86.3個体/m2、生存率は24.8%及び65.3%で、S区では生存率に被覆度や開空度との相関は無かったが、開空度の高い3つのG区のコドラート間では、生存率は被覆度により大きく異なった。

以上のことから、ケヤキ当年生実生の発生については、約30m以内の成木個体密度の影響が大きいと考えられる。一方、実生の高い生存率には、林冠でのギャップ形成かつ土壌撹乱等による林床植生の抑制が大きな引き金となることが考えられる。今後は実生の発生・生存状況の経年変化や、種子散布量等の把握が重要と思われる。

日本生態学会