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一般講演 P2-140

分布北限域におけるイヌブナの分布と規定要因

*原正利(千葉中央博)・関剛(森林総研・東北)・小澤洋一(岩手県環境保健研究センター)・鈴木まほろ(岩手県博)

落葉広葉樹の分布北限はどのような要因によって決まっているのだろうか。温帯性落葉広葉樹を代表するブナについては、以前から多くの研究がなされてきたが、他の樹種ではほとんど研究が無い。本研究では、ブナと同属で我が国の太平洋側下部温帯林(中間温帯林)の指標的な種であるイヌブナについて、宮城県以北の分布北限域における分布を踏査データや標本、文献情報等に基づいて詳細に調べ、国土数値情報を用いて、気候や地質・地形等の分布規定要因について検討した。

分布北限域においてイヌブナは、宮城・岩手県境付近から岩手県中部の宮古市付近にかけて沿岸部では比較的、連続した分布を示す。一方、内陸部では、花巻市台温泉付近と葛巻・一戸町境付近に隔離分布するのが特徴である。さらに最近、青森県八戸市にも隔離的に分布することが知られた。

これらの分布地点の気候要因を検討すると、暖かさの指数WIの値は大部分が60℃・月から95℃・月の範囲にあり、また、最深積雪深については大部分が120cm以下であった。従ってイヌブナが寡雪地の下部温帯域に分布していることが、データ的にも裏付けられた。しかしこれだけでは、隔離分布する原因や、八戸市よりも北の地域に分布しない理由は説明できない。そこで次に、地質要因を検討した。その結果、イヌブナは、第3紀以前の堆積岩や火山岩の地域には広く分布するが、大規模な扇状地や沖積地、第4紀の火山砕屑物や軽石(浮石流堆積物)など未固結な堆積物に覆われた地域には分布せず、また、北上山地においては花崗岩などの深成岩に覆われた地域にも分布しないことが明らかとなった。さらに地形要因や人為による影響等も考慮して、分布北限を規定する要因について考察する。

日本生態学会