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一般講演 P2-145

沖縄ヤンバルの天然林除伐後の植生―育成天然林施業と群集構造―

*阿部真,田内裕之(森林総研),佐藤大樹(森林総研九州)

沖縄本島北部のヤンバル地方は、ブナ科、クスノキ科の樹木を主体とする亜熱帯常緑広葉樹林が成立し、多くの固有種を擁する多様な生物の宝庫として知られる。一方、育成天然林は、沖縄県農林水産部の天然林改良事業(のち育成天然林整備事業)に基づいて、1972(昭47)年からヤンバルをはじめ県内で行われてきた施業である。国有林を除く広葉樹天然林面積(約4.3万ha)の約4分の1を占めるに至ったこの施業は、林業上の有用樹種の蓄積増大を図って天然林の除伐(密度調整伐)を行う。森林の構造や種構成を物理的に変えることになり、また除伐後に伐倒木が放置されるため、動植物や菌類等の個体群分布や生活史への様々な影響も予想される。そこでヤンバルにおける育成天然林施業が生態系に及ぼす影響を評価するために、2005年から調査を開始した。育成天然林における地上植生の群集構造を報告する。

ヤンバル地方の北部、国頭村西銘岳周辺の天然林において、育成天然林15林分と施業記録のない4林分にそれぞれ400m2〜800m2の固定調査地を設け、毎木調査(胸高直径3cm以上)と、下層に生育する維管束植物の方形区調査(4m2、各20〜25カ所)とを行った。毎木調査ではスダジイ(イタジイ)を最優占種とする101種、下層の維管束植物では約200種が記録された。育成天然林では上層木の種構成が単純化しており、優占の偏りが強く、施業で意図されたように非有用樹種の蓄積が減っていた。下層植生については無施業地との間で出現種数に大きな差はなく、優占種も類似していた。除伐後の時間経過に沿って、種数および各種個体群の増減について時系列的な変化は不明瞭だった。同じく立木密度の変化は不明瞭だったが、胸高断面積合計は増加傾向にあり、有用樹種の蓄積については回復していると考えられた。

日本生態学会