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一般講演 P2-147

モンゴルの放牧地生態系における放牧傾度に沿った植物群落の閾値的な変化

*佐々木雄大,岡安智生,ジャムスランウンダルマ,武内和彦

ある一定の生態学的閾値を越えると、生態系機能や生物多様性は著しく損なわれる。たとえば、ある景観における森林依存の鳥類の種数は一定の閾値レベルまでは森林被覆率と関係しないが、一旦その閾値を越えてしまうと、種数は急激に減少する。このような急激な変化は、放牧地生態系においても起こりうる。しかしながら、放牧地生態系における生態的プロセスの閾値的な変化の本質はあまり理解されていないのが現状である。本研究ではモンゴル草原を対象地域とし、1)放牧傾度に沿った植物群落の変化において生態学的閾値が存在することを明示し、2)それらの変化が気候条件および景観位置が異なる多数のサイトで一貫して表れるかどうかを検証した。

モンゴル中央部から南部にかけて計10のサイトを設置し、家畜のキャンプ地や水飲み場などの放牧拠点からの傾度に沿って調査を行い、植生データを収集した。各サイトにおける放牧傾度に沿った種組成データを序列化により単純化した後、算出されたデータ(序列化の第一軸スコア)と放牧拠点からの距離の関係について線形モデル(未変換および対数変換)および非線形モデル(broken-stick、逆数、指数)をあてはめ、赤池情報量基準および残差平方和によるモデル選択を行った。

全てのサイトで非線形モデルが線形モデルに比べて非常に良く適合し、放牧傾度に沿った種組成の変化が不連続であることを強調する結果が得られた。また、気候条件、景観位置、植生のタイプ、放牧家畜の種類がサイト間で異なるにもかかわらず、一貫して植生の変化に不連続性が見出されたということは、本研究地域における植生の放牧に対する応答が本質的に非線形であることを示唆している。

日本生態学会