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一般講演 P2-154

異なる季節に結実するサクラ属2種の種子散布パターン〜鳥による果実持ち去り率と種子散布距離の比較〜

*澤 綾子(筑波大・生物),正木 隆(森林総研),直江将司(京大・ 生態研センター),鞠子 茂(筑波大・生命環境)

温帯林で液果をつける樹木の多くは、結実期が秋の鳥の渡りの時期と一致するため、種子散布の効率が高いと考えられている。しかし一方で、渡りの時期から外れた夏に結実する種も存在する。夏結実種が秋結実種と同様に個体群を維持するためには、夏結実種は(1)結実期が鳥の渡りと一致しなくても高い種子散布効率を得ることができる、あるいは(2)種子散布効率が低いにもかかわらず個体群を維持することができる、という2つの仮説が考えられる。そこで本研究は、(1)の仮説を検証するため、日本の冷温帯林に広く同所的に分布するサクラ属Prunus のカスミザクラ(夏結実)とウワミズザクラ(秋結実)を対象に、鳥による種子散布パターンを比較した。

調査は、2006年5−12月に茨城県北茨城市の小川試験地(6ha)において行った。鳥による種子散布のピークを調べるため、両種の樹冠下にシードトラップ(0.5m2)を設置して種子落下数を計測し、同時に樹冠を訪れる鳥をポイントセンサス法で記録した。さらに、種子散布パターンを調べるため、6ha全域にシードトラップを14m間隔で格子状に設置し、果実の持ち去り率と散布種子の成木からの距離分布を推定した。

その結果、カスミザクラにはほとんど鳥が訪れず、種子散布のピークが不明瞭であったのに対して、ウワミズザクラには多様な種が頻繁に訪れ、明瞭な種子散布のピークが見られた。さらに、果実の持ち去り率、散布種子の成木からの距離分布ともに、カスミザクラの方が低い傾向を示した。これらの結果は、カスミザクラの種子散布効率が低いことを示唆している。したがって夏結実種であるカスミザクラが温帯の森林群集で個体群を維持する機構としては、(1)よりも(2)の仮説がより妥当であると考えられた。

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