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一般講演 P2-177

熱帯山地林内で樹種依存的に形成される土壌微生物群集の構造と土壌酵素活性

*潮雅之, 和穎朗太, 北山兼弘(京大・生態研)

土壌微生物群集は森林生態系においてリターの分解を担っている。土壌栄養塩の乏しい森林が多く見られる熱帯地域では、リターの分解により放出される有機物起源の栄養塩は植物の生育、一次生産にとって重要である。マレーシア、ボルネオ島、キナバル山の熱帯山地林では、植物の一次生産、リターの分解に影響を与える要因として、土壌中のリン、フェノール物質、それらの分解酵素であるリン酸分解酵素、フェノールオキシダーゼ、セルロース分解に関わるグルコシダーゼ、などが考えられる。土壌微生物の群集組成は土壌酵素活性、リターの分解速度に影響を与える。微生物の群集組成はリン脂質脂肪酸により解析できる。また、微生物群集の生化学的能力の指標として基質利用パターンも解析されている。森林生態系研究では、一般的に土壌栄養塩濃度やリターの分解速度は一つの森林内で空間的に一様のものとして扱われてきた。しかし、熱帯林では一つの森林に多様な樹種が存在し、これらが量と化学的な質の面で樹種特異的なリターを生産している。このため、森林内に樹種依存的な微生物群集が形成され、これが基質利用パターンや土壌酵素活性の違いをもたらし、空間的に異質な土壌が形成されると考えられる。

我々は、キナバル山の熱帯山地林において、優占する5高木樹種からそれぞれ5個体を選び、樹冠下から表層5 cmの腐植土壌を採取し、土壌微生物の群集組成と基質利用パターン、土壌の物理化学特性、土壌酵素活性(リン酸分解酵素、グルコシダーゼ、フェノールオキシダーゼ)を調べた。その結果、土壌微生物の群集組成、基質利用パターンは樹種間で異なっていた。また、土壌酵素活性も他の樹種より有意に高い樹種が存在した。樹種の多様な熱帯山地林では、一つの森林内であっても土壌微生物の群集組成、基質利用パターン、土壌酵素活性が樹種依存的、空間的に異なっていることが示唆された。

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