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一般講演 P2-180

孤立度によって変化する都市森林の中型哺乳類相

*石田 惣(大阪市立自然史博),内藤由香子(福井市自然史博)

地方都市における耕作地の宅地化や道路造成などにより、里山丘陵地は互いに孤立した森林パッチとなりつつある。このような森林は様々な生物にハビタットを提供しており、ラージスケールでは都市部の生物多様性の維持という点で重要な機能を持つ。一方、孤立森林はその狭小な面積や隔離により、群集の種構成が単純化したり、林縁部で外来種の侵入を受けやすいとされる。このような現象は経験的に知られているが、生態学的調査は植物を対象としたものが多く、動物、特に哺乳類での知見は少なく、包括的に解明されているとは言い難い。

そこで本研究では、福井県福井市〜越前市の平野部の複数の孤立森林、及び近接する山地において、赤外線センサーカメラで哺乳類相調査を行い、各森林の孤立傾向との関係を解析した。その結果、山地で捕捉されたイノシシ、ニホンカモシカ、ニホンジカなどの大型種は、いずれの孤立森林でもほとんど捕捉されなかった。また、面積が小さく、近接山地との距離が長く、かつ周辺で市街化の進行した森林では、捕捉される中型種は極端に少なくなり、ハクビシン、イヌ、ネコなど住宅地に適応した種しか出現しなかった。一方、面積が小さくても近接山地と近い、または近接山地と離れていても面積が大きい森林では、山地と同程度の種数が捕捉された。また、森林の面積が大きいほど中型種の捕捉頻度は上がる傾向にあった。

これらから、大型種と一部の中型種(ニホンリスなど)の生息には山地が適しているものの、多くの中型種にとって一定面積以上の孤立森林はハビタットとして重要であると考えられる。中型哺乳類の多様性を都市で保全しようとするのであれば、孤立森林そのものの面積を維持するだけでなく、近接山地とのコリドーとして機能しうる周辺の田畑などの環境の維持も併せて考慮する必要があるだろう。

日本生態学会