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一般講演 P2-183

生物の安定同位体比と地域環境要因の関連性

*馬谷原武之(日本大院・生物資源科学),河野英一,笹田勝寛,宮地俊作(日本大・生物資源科学)

都市や農村からの人為的影響を受ける地域の生態系において、地域を構成する環境要因と生物の関連性解明は重要である。演者は神奈川県藤沢市に位置する都市近郊の谷戸地形等をモデルとして、地域環境要因と生息する生物の安定同位体比の関連性、地域環境指標としての可能性について検討を行なっている。

調査地は谷戸上流域から下流域にかけて小流水により土地が分断されており、右岸側は畜産施設を含む農地、左岸側は宅地に囲まれている。調査地点として流水を挟み右岸、左岸を対として計8地点設定した。前回の発表ではアオオサムシ、ゴミムシ類、オオヒラタシデムシ等の地表性昆虫、表層土壌等の分析結果について報告したが、今回は加えて土壌生物のワラジムシ、全域に生育している植物の代表としてジャノヒゲ等、谷戸内地点を縦横断に移動しているサワガニについての炭素・窒素安定同位体比測定、また、土壌、流水についてイオン成分の測定を行った。

同一種であっても各サンプルの窒素同位体比は数メートルの距離しかない右岸と左岸のもので顕著な差を示した。右岸側の各サンプルは窒素同位体比が左岸と比べ概ね1〜4‰高く、特に畜産施設隣接地点は高かった。谷戸右岸側には畜産施設からの表流水が一部流れ込んでおり、サワガニの窒素同位体比は下流に向けて高くなる傾向を示した。植物や土壌生物、地表性昆虫等の安定同位体比は生息域の分断等によって、周辺地域の土地利用状況等の環境基盤を反映していると考えられた。また、各生物種の窒素同位体比の変動幅の比較から地域環境指標としての可能性について考察したい。

これらの谷戸でのデータの他、都市近郊地域の遊水地の植物、昆虫の同位体比変動の結果についても一部交えて議論を行う予定である。

日本生態学会