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一般講演 P2-192

マングローブ林性昆虫の体内時計を使った潮サイクルへの適応

佐藤綾(琉球大・理)

マングローブ林は、潮汐の影響を受ける場所である。林床は、干潮時は露出しているが、満潮時には海面下に沈んでしまう。そのため、林床に生息している昆虫は、干潮時にしか活動できず、満潮時は海水の影響を受けない場所へ避難する必要がある。では、どのようにして満潮の時刻を知るのだろうか。その方法として、潮位の変化を直接感知する方法と、体内に備わっている生物時計を使って“知る”方法が考えられる。本研究では、マングローブ林の地表性昆虫2種を対象とし、野外観察と室内実験を行って、潮汐に対応した体内時計を持つのか探った。

マングローブスズは、マングローブ林にのみ見られるバッタ目の仲間で、満潮時にはマングローブの幹の上で休止しているのが観察される。全暗の恒温室(25℃)内で歩行リズムを7日間記録した結果、1日2回、活動を休止している時間帯があることが明らかとなった。歩行リズムの自由継続周期は平均12.75時間(n=15)であり、満潮のサイクル(約12.4時間)に対応した体内時計を使って活動していると考えられた。

シロヘリハンミョウは、海辺に見られるコウチュウ目の仲間であり、マングローブ林に生息するシロヘリハンミョウの幼虫は、オキナワアナジャコの塚に巣穴を作る。野外観察を行った結果、幼虫は満潮時刻の平均76.8分前(n=21, 観察事例=46)になると、海水の浸入を防ぐため巣穴の入口を閉鎖することが分かった。また、水没の起こらなかった日にも閉鎖行動が見られたため、幼虫は潮位の変化を直接感知しているのではなく、この行動は潮汐に対応した体内時計に支配されていると考えられた。

本研究により、マングローブ林性昆虫の少なくとも2種は、体内時計を使って潮汐サイクルに巧みに適応していることが明らかとなった。

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