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一般講演 P2-217

ツキノワグマの食物資源としてのヒノキ内樹皮の評価

*山田亜希美(筑波大学),藤岡正博(筑波大学・井川演習林)

ツキノワグマが針葉樹の樹皮を剥ぐ行動(いわゆるクマハギ)は、天然林でもみられるが、とくに日本各地の人工林で問題となっている。クマが樹皮を剥ぐ理由は、針葉樹内樹皮を食物として摂食するためとする説が有力である。本研究では、ヒノキ人工林において糖度と年輪幅による成長の経年変化を調べることによって、内樹皮をクマの食物資源として評価した。

調査は静岡市北部の山岳地にあって激しいクマハギ被害が出ている筑波大学農林技術センター井川演習林のヒノキ人工林において、2006年に実施した。4〜5月に、間伐されて数ヶ月以内の4林分でクマハギ被害木と無被害木、計79本の年輪幅を測定した結果、被害木の年輪幅は無被害木の年輪幅よりも広く、また、被害木ではクマが摂食した年の1〜3年後にはその前より年輪幅が有意に増加していた。被害の最盛期である6月に林齢の異なる7林分で隣り合った胸高直径の太い個体と細い個体を対にして、計70本について一定面積の樹皮を剥がして内樹皮の重量と糖度を測定した。結果、糖度(brix糖度)は平均で9.4%と漿果類並みに高く、林齢や対同士の太さによっては変わらず一定であった。一方、内樹皮の重量は林齢による違いはなかったが、対のうち太い方が細い方より有意に多かった。

これらのことから、クマにとってヒノキ内樹皮は糖分の多い食物であること、樹木の選択基準としては内樹皮の糖度よりも重量の方が重要で、成長の良い太い木の食物的価値が高くクマに摂食されやすいこと、一度摂食されるとその後も繰り返し摂食される可能性が高いことがわかった。

日本生態学会