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一般講演 P2-220

野外で寄生蜂は寄主の質を識別するのか? −既寄生寄主への産卵回避行動の推定−

*水谷杏子,楠田尚史,仲島義貴(帯広畜産大学・総合環境科学)

寄生蜂の未成熟個体は、親蜂が産卵場所として選んだ1頭の寄主を餌として発育を完了する。既に寄生された寄主(既寄生寄主)への産卵は、子の生存率を著しく下げるため、寄生蜂雌成虫がどのような質の寄主に産卵するかは、適応度獲得において最も重要な意思決定となる。

アブラムシ類の寄生蜂Aphidius erviには優占する2種の高次寄生蜂、Dendrocerus carpenteriAsaphes suspensusが存在する。野外においてこれらの高次寄生蜂の寄生率は高く、60%に達することがあり、一頭の寄主に複数の高次寄生蜂の卵が存在することもある。本講演では、これら高次寄生蜂2種が自個体、他個体および他種による既寄生寄主に対し、どの程度識別行動を示すかを室内実験によって明らかにするとともに、野外での高次寄生蜂の既寄生寄主識別がどの程度おこなわれているのか推定を試みた。

室内実験の結果、D. carpenteriは既寄生寄主への産卵を回避する傾向がみられたが、A. suspensusは同種他個体、他種による既寄生寄主への産卵を選好する傾向が見られた。この室内実験の傾向が野外でもあてはまるかを推定するために、高次寄生蜂の産卵行動に関する複数のモデルを仮定し、最尤推定法により野外における高次寄生蜂の卵・幼虫分布に最も良くあてはまるモデルを選択した。その結果、定性的には室内で観察された行動で、野外の現象を説明することができ、高次寄生蜂は野外においても寄主識別をおこなっていると推定された。高次寄生蜂2種の既寄生寄主に対する行動に違いが生じた理由、野外での寄主識別行動と寄主密度の関係、および寄生蜂の行動推定における今後の課題について議論する。

日本生態学会