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一般講演 P2-221

交尾中のアジアイトトンボの雌体内における精子数の変動

*田島裕介,渡辺 守(筑波大・院・生命共存)

蜻蛉目昆虫において、精子競争に関する研究は数多く行なわれてきたが、実際に精子の数を調べた研究は少ない。本研究では、交尾中断実験によって、雌の交尾嚢と受精嚢内の精子数を推定し、交尾中における精子の動態を明らかにすることを目的とした。

本種の交尾行動は、雄の腹部の動きの違いから、腹部第1・2節を押し下げたり延ばしたりする段階(ステージI)と、腹部第3節を雌の腹部第8・9節に押し付ける段階(ステージII)、動きのない段階(ステージIII)の3つに分けられる。継続時間はステージIで約76分、ステージIIで約6分、ステージIIIで約15分だったが、1日うちの交尾開始時刻が早いほどステージIは長くなる傾向が認められた。その結果、どの交尾の交尾終了時刻も9時前後に集中していた。

処女雌を交尾させたとき、ステージIでは、精子が注入されなかった。ステージIIで精子注入が開始され、時間の経過とともに雌体内の精子数が増加した。ステージIIIにおいても精子注入がみられたので、腹部の運動によらずとも精子注入は行なえるようである。1回の交尾で、雌は交尾嚢に約64,500本、受精嚢に約43,000本の精子を受け取っていた。

雄の副生殖器の先端には、精子を掻き出すための角状の付属器がある。ステージIは、雌が既交尾であった場合、雌体内にすでに貯蔵されている精子を掻き出す段階であると考えられた。野外において、既交尾雌を用いた交尾中断実験を行なうと、ステージIの間に交尾嚢で精子数の減少がみられた。本種の雌の交尾嚢と受精嚢をつなぐ管は細くて長いため、角状の付属器は受精嚢まで届かず、雄は交尾嚢内の精子しか掻き出せないと予測される。しかし、受精嚢でも精子数の減少が見られたので、精子の掻き出し以外の何らかの精子置換機構が存在するかもしれない。

日本生態学会