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一般講演 P2-231

潮間帯笠貝Patelloidaにおける生態的・形態的分化

*中井静子,三浦収,牧雅之,千葉聡(東北大・生命科学)

空間的競争が種間のhabitat selectionの原因となることが軟体動物における多くの研究で示され、いくつかの研究は密接な関係にある種間の競争が多様な生息場所の違いをもたらすことを示唆している。潮間帯カサガイPatelloida pygmaeaにはpygmaeaconulusという2つの型が知られている。pygmaeaは他の一般的なカサガイと同様、扁平な笠状の形をしており野外ではカキ殻の上に付着している。conulusは著しく殻高の高い塔状の形をしており野外では主にウミニナ類の殻の上に付着している。本研究ではこれら2型と付着基質の関係、およびこれら2型の相互関係について宮城県・神奈川県・兵庫県の計8地点のサンプルを用い、酵素多型分析、野外観察、室内実験、形態測定を行い考察した。

その結果、2つの型は生殖的に隔離された別種であること、遺伝的交流なしに密接した場所で共存していることが示された。野外観察からconulusは通常ウミニナ類の殻の上でしか見られないが、pygmaeaのいない環境ではカキ殻の上にも付着していることがわかった。室内実験では、カキとウミニナの殻が両方存在する条件でpygmaeaはカキ殻にconulusはウミニナ類の殻に有意な付着選好性を示した。pygmaeaは付着基質としてウミニナ類の殻のみを与えた場合でもウミニナ類の殻には付着しなかった。対して、conulusはカキ殻のみを与えた場合にカキ殻に付着した。conulusのカキ殻への付着はpygmaeaがカキ殻の上に付着している場合に、有意に減少した。これらの結果から、pygmaeaはカキ殻上においてconulusよりも生態的スペシャリストであると考えられる。

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