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一般講演 P2-255

社会性アブラムシにおける階級分化の調節機構

*植松圭吾(東大院・広域システム)・沓掛磨也子(産総研・生物機能工学)・深津武馬(産総研・生物機能工学)・柴尾晴信(東大院・広域システム)・嶋田正和(東大院・広域システム)

アブラムシでは、ゴール(虫こぶ)などのコロニーを形成する一部の種において、捕食者の攻撃に対する防衛・コロニーの掃除などを行う不妊の兵隊階級を持つ社会性アブラムシの存在が知られている。この社会性アブラムシはタマワタムシ亜科とヒラタアブラムシ亜科のみで存在が確認されており、分子系統解析の結果この2つの亜科においてはそれぞれ独立に、複数回社会性を進化させたと考えられている。また兵隊階級と生殖階級は単為生殖で産まれるため、遺伝的には同一であるにも関わらず、両者の形態は異なる。しかしその分化に関する至近要因はほとんど解明されていない。

本研究では社会性の起源が異なるタマワタムシ亜科のクサボタンワタムシColophina armaとヒラタアブラムシ亜科のハクウンボクハナフシアブラムシTuberaphis styraciの2種を対象にして、兵隊階級―生殖階級間の形態の比較を行った。クサボタンワタムシでは母親の体内にある胚の段階ですでに形態的二型が存在し、産まれた1齢幼虫の一部が兵隊階級となるが、ハクウンボクハナフシアブラムシでは兵隊階級は2齢幼虫期に出現し、1齢幼虫期では兵隊階級の分化は起こっていない。よってクサボタンワタムシでは誕生後の環境変動への対応は出来ないが防衛に特化したボディプランを持った兵隊を生産でき、ハクウンボクハナフシアブラムシではボディプランを大幅には改変できないが外部環境の変動に応じて兵隊を生産できるという生態的意義が考えられる。これら2種の階級間での外部形態と内部形態を解析し、その変化の程度を比較することにより、兵隊分化に関する至近要因とともに、上に述べた生態的意義の妥当性についても考察した。

日本生態学会