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一般講演 P3-064

花蜜をめぐるマルハナバチの個体間競争 〜勝敗を分ける要因

*大橋一晴(筑波大・生命環境科学), Thomson, JD, Leslie, A, D'Souza, D(トロント大・動物)

いったん食いつくされても時間をかけて徐々に更新される、花粉や蜜などの資源を餌とするポリネーターは、いくつもの花を何度も訪れ、餌を集めてまわらねばならない。マルハナバチやハチドリでは、個体が採餌経験を積むにしたがい、一定の環状ルートに沿ってパッチを巡回するようになることが知られる。この「トラップライン行動」は、競争時において1つ1つのパッチで出会う蜜量を大きくする効果をもつことが、先行研究で理論的に示されている。では実際にポリネーターの採餌における経験量のちがいは、トラップライン行動をつうじてそのような利益をもたらすだろうか?

我々は、一定速度で蜜を分泌する人工花(パッチ)を用いたケージ内実験をおこない、蜜をめぐって競争するマルハナバチの空間移動パターンが、その採餌成績(時間あたりの集蜜量)におよぼす影響を調べた。その結果、競争時の採餌成績は、トラップライン行動がより顕著なときほど、また花間の移動がより早いときほど高くなることがわかった。したがって、競争する2匹のハチのあいだで採餌経験量が大きく異なる場合には、これらの点において勝る「熟練」個体が「新米」個体よりも常に採餌成績が高くなる傾向が見られた。トラップライン行動は、1つ1つの花で出会う蜜量をふやす効果をつうじて、採餌成績を高めていた。また花間のすばやい移動は、時間あたりの訪花数をふやし、かつ貯まった蜜を相手よりも先に吸う頻度(先取り率)を高める効果をつうじて、採餌成績を高めていた。これらの結果は、なわばりを持たない動物であっても、餌場における経験が、その行動をつうじて他個体との競争において有利にはたらくことを示す、興味深い知見である。

日本生態学会